目次
はじめに
前回はどの様なシーンでオプション取引を活用するかについて述べましたが、今回はより実践的な内容について述べていきます。前回の記事については以下参照ください。
AS Wind流資金管理法 オプション取引を使ったヘッジのかけ方 前編
今回もプットオプション(売る権利)を買うことを前提に話を進めます。
オプション取引につかう資金の準備方法
オプション取引はイチかバチかの要素が非常に強い金融商品です。勝つときは2,3倍が当たり前、負ける時はほぼ0です。しかも権利を買いで入る場合は非常に負ける確率が高いことが統計からでています。普通に資金を回していたらあっという間に破産してしまいます。従って、「別になくなってもいい」と思える範囲で準備しなくてはいけません。
大事なお金にそんなものはない!と思われる方もいると思いますが、そういう方にはオプション取引は向いていないと思います。(^-^;
投資額に対して完全にヘッジできる額はどの程度か
ヘッジに使う場合のオプションの原資ですが、どのくらい準備したらいいのでしょうか?
仮にいまロングのポジションが100万円あるとします。損切り基準を8%に設定しているとすると損切り額は-8万円ですね。
オプション取引は相場が乱高下する局面では100%程度の上昇はあっという間です。従ってヘッジに使うと考えるとオプションを購入する金額は損切り額と同じ8万円程度が完全にヘッジできる金額です。
わかりやすいですね!自分で設定した損切り額と同程度のオプションを購入すればいいんです。しかし、ヘッジに失敗した時のリスクについても考えておかなければいけません。
市場と株価の動きによるリターンの違い
先程の例で、持っているロングポジションと市場の動きによってどのようなことが起こるか考えてみましょう。
仮に想定通り市場も上昇して株価も上昇したとします。
そうすると資金の8%のプットオプション権利はほぼ消滅するでしょう。従って、ロングポジションで8%以上の利益が残らないと損をしてしまいます。
次のパターンとして市場は下落して株価は上昇したとします。
この場合は、ロングポジションのリターンにプラスしてオプションの利益も乗ってきますね。まぁ、嬉しい誤算ではありますが、ヘッジとして考えているのであまり想定するべきではありません。
最悪なのは市場が上昇して株価が下落することです。
この場合は、ロングポジションの損失に加えてオプション分も0になったと考えなくてはなりません。前編で述べた条件で市場と銘柄の方向性が同一であることに拘っているのはこの辺の事情があります。
こうなると目も当てられません。損切りラインまでいくと最大ロスカットの8%+オプションの損額8%分を合計した16%の損失となります。
適切なオプション取引に使う資金の割合は?
以上のように完璧にヘッジをするとなると自分で決めたロスカット水準になる訳ですが、ロスカット水準が低いとオプションに回す資金が多くなり、あっという間に原資が減ってしまいます。また逆にロスカット水準を高くし過ぎるとオプションに回す資金が少なく極端なアオウトオブザマネーになって時間的価値の減少が大きくなかなかオプションの価値が上がってこないことにもなります。
私が今まで取り組んできた感覚でいうとロングポジションに対するプットオプションの比率は通常の下落時は3~5%程度、暴落時は5~8%程度が適当ではないかと思います。
また最低のオプション購入価格としては3万円、できれば5万円以上です。
オプション口座の資金管理について
私は普段からオプション原資を確保するために、株式投資で利益確定した際は利益の5%をオプション口座に回すようにしています。
この5%は保険代と考えて、ほぼないものと捉えています。このようにすると投資資金を傷つけることなくオプションの原資を準備できます。すでに保険代としてないものと考えていますから、ゼロになってもしょうがないと割り切って運用しています。
始めてオプション口座を持たれる方については、頑張って利益を上げて原資を確保するか、自分の運用資金から5%を損切りしたと思って資金を準備してください。
損を取り返そうとオプションで儲けようと思ってはダメですよ。たぶん、あっという間に溶けてなくなります。(^-^;
ヘッジ運用がうまくいった結果、オプション口座に資金が増えた場合は株式口座に還元します。増えるとついつい大きくかけてしまいたくなってしまいますが、何度もいうようにオプション取引はイチかバチかの要素が大きく、あっという間に原資を溶かしてしまいます。ヘッジ取引ということを忘れないため、オプション取引口座には常に総原資の5%~8%の状態を保ちます。
オプション取引による損益管理の注意点
オプション取引の損益は雑所得とみなされて申告分離課税となります。利益に対して20%の税金がかかりますので、その分は原資と分離して考える必要があります。
逆に保険代として機能して損失がでている場合は、確定申告で3年間の繰り越し控除となりますので税金の還付をうけることができます。
実際の売買方法
先程はヘッジとして使う資金の準備方法と投資金額について書きましたが、次はその投資金額を使ってどのようにオプションを売買するかについて述べます。
「プレミアム」の選び方
オプションは権利を売買する商品ですが、この権利の価格を「プレミアム」といいます。
以下に実際の取引事例で説明します。これはSBI証券の先物・オプション取引画面のオプション板表示画面です。
このオプションの板はブログを執筆している段階(2020年3月8日)のものです。左上に2020年4月限と書いてます。左下にSQ日が書いてますが、2020年4月10日に精算されることになります。
真ん中の権利行使価格を挟んで左はコール(買う権利)、右はプット(売る権利)になります。現在値と書かれている列がプレミアムの価格です。実際の購入価格は×1,000円です。権利行使価格20,000円のものはプレミアムが800と表示されてますが、購入価格は800,000円ということになります。
現時点(2020年3月8日)で日経平均は20,750円です。権利行使価格が20,750円のものは実質的価値が0ですが、この状態を「アットザマネー」といいます。アットザマネーから下の権利行使価格がプットにおいては「アウトオブザマネー」上が「インザマネー」になります。
この板でいくとアットザマネーの20,750円のプレミアムが1,120,000円で取引されてますね。実質的価値は0なんですが、時間的価値と現在は暴落中という期待値を合わせてこのプレミアムになっていると思います。
市場で取引されていますから、需給のゆがみの関係で価格が上下しますが、基本的にはインザマネーになればなるほどプレミアムは高くなります。オウトオブザマネーは逆ですね。もう少し下の権利行使価格を見てみましょう。
権利行使価格が16,250円まで載っています。ここまで日経平均が下がるとは到底思えませんが、プレミアムとしてはこれでも155,000円です。今は暴落相場という特殊な環境ではありますので時間的価値に対する期待値が高いことの現れです。
しかし、このような実現不可能そうな権利行使価格でも前日からの日経平均の下落幅-2.72%に対して、プレミアムは+40(40,000円)上昇しています。率にすると34.78%の上昇です。SQ日まで十分な時間があれば時間的価値の減少にも負けずにしっかりと利益を上げることができます。
実際の取引例を考えてみましょう。
先程の考えていくと、2,000,000円程度のロングポジションをとっている場合は、100,000円(5%)から160,000円(8%)程度のプレミアムを買っておくといいということになります。
仮に前日にオプションを買っているとすると、先程の16,250円の権利行使価格のオプションは115,000円だったので
115,000 ÷ 2,000,000 = 0.0575
ロングポジションに対して5.75%ですから、ヘッジの購入価格としては丁度良い感じですね。
次の日、ロングポジションが市場と同程度(-2.72%)下落したとすると損失は-54,400円です。オプションの利益は+40(40,000円)ですから
40,000円 ÷ 54,400円 = 0.7353
損失の73%はカバーできたことになりますね。
このようにヘッジで使う場合は自分のロングポジションの金額に対していくらのプレミアムを買うか選択します。
「タイムディケイ」とSQ日までの残り日数に注意する
先程の例では4月限の板を利用しましたが、ブログを執筆している段階(2020年3月8日)から一週間後(3月13日)にSQ日を迎える3月限のオプション板で注意すべき点を見てみましょう。
先程の例で見た同じ権利行使価格(16,250円)のプレミアムが市場がマイナスになっているにも関わらず同じく下落しています。また、プレミアムの価格も8,000円と極端に低い状況です。
3月限のオプションは来週末がSQ日です。時間的価値が加速的に減少する状態に入っています。従って、4月限では大幅上昇だったプレミアムが3月限では11.11%の下落になっているのです。
時間的価値の減少のことを「タイムディケイ」といいますが、SQ日が近いオプションはこの問題があるため、SQ日まで2週間を切った限月のオプションは買わないことをお勧めします。
ついでに3月限のアットザマネー近辺の板も見てみましょう。
現時点で日経平均は20,750円です。権利行使価格が20,750円のものはアットザマネーなので実質的価値が0ですがプレミアムは705,000円もしています。
来週末がSQ日で精算され、価値は0円になるのにこの価格。。現在は暴落相場なので期待値が膨らんでいるのでしょうが、ホントにイチかバチかのギャンブルですね。
恐らくここ一週間で3月限のオプションの価格は乱高下すると思います。先程のタイムディケイの問題も含めてSQ日が近いオプションを取引するのはボラティリティが非常に高いのでやめたほうがいいでしょう。
すくなくともSQ日の2週間前で次の限月に取引の場を移すことをお勧めします。
売買は細かく実行する
ここまで見てきたようにオプション取引というのは非常にギャンブル性の高い取引ということはお分かりいただけたと思います。
先程「タイムディケイ」について書きましたが、権利行使価格16,250円の4月限のプレミアムは現在155,000円ですが、日経平均が横這いであったならば来月の今頃は3月限と同じく8,000円程度まで下落しているはずです。日経平均が上昇したならばもっと早く価値は下落します。
オプションは市場が横這いや思惑と違う方向に動くとあっという間に価値が下落してしまう商品なので、思惑の方向に動くのを待つために長く持つことはリスクになります。
従って、ヘッジとしての効果が発現したらすぐに利益確定し、思惑と逆に動いたらすぐに損切りすることが肝要です。
運よくプットオプションを利益確定した場合、市場と連動してロングポジションの株価も下がっていることになります。まだまだ市場の下落が想定される場合は新たなロングポジションの価格に応じてより低いプレミアムの価格を購入します。
従って、ポジション口座の余力も徐々に増えていきます。
このようにして市場の下落トレンドが続く場合は、常にプットでのヘッジをかけておくことで資産を守ることができます。
最後に
いかがでしょうか。オプション取引を使ったヘッジのかけ方について少しは理解いただけたでしょうか。あまり馴染みのないオプション取引ですので、やや理解しづらい点があるかと思います。最初よりはなんとなく理解できるレベルになれたでしょうか(^-^; 説明が下手ですいません。。
今後はより補足の説明を加えたり、実践の中で内容の修正を図っていこうと思います。
慣れてくると、実際の市場の下落の度合いやプレミアムの価格の変動幅と建て玉数を調整することでより効率的で安全にヘッジをかけることができるようになります。
最後にもう一度取引履歴を載せておきます。
建て玉価格と決済価格がプレミアムの価格ですね。建て玉の数は省いてのせています。
先物や空売りに比べれば、扱いは難しいものの、リスクが限定されてかつレバレッジが効いているオプションは非常に有効なヘッジ手法だと思います。
興味のある方はぜひ自分なりのヘッジ方法を研究してみてください。