目次
はじめに
CAN-SLIM投資は順張りの投資手法です。
従って、下げ相場の場合は全銘柄を売却して様子見に徹することを基本としています。
しかし、下落相場への転換点ではどこで流れが変わったかの判断が難しく一時的に下落リスクが高まることが考えられます。
また流れが変わった。と思ったら実は市場の調整でその後の上昇に置いてけぼりをくらう可能性もあります。
さらに上昇トレンドに転換する瀬戸際においても底をつけたかどうかは正確に当てられるものではないし、投資においてチャンスではあるがリスクの高まる場面だと思います。
このような場面でいかにリスクを抑えて利益をとれるか。投資家の永遠のテーマだと思います。
オプションに興味を持った理由
オニールは「成長株発掘法 第12章 資金管理」の中でオプション取引について触れていますが、冒頭で次のように述べています。
あまりお奨めではない感じですね。(^-^;
しかし、オプション取引を使う意義についてもふれています。
CAN-SLIMの弱点である弱気相場では、オプション取引もありかもしれない。と述べています。オニールは空売りの本もだしていますから、どちらかというと弱気相場の時は空売り派なのでしょうね。
私もいずれは空売りをうまく活用したいため、「オニールの空売り練習帖」で勉強はしていますが、まだまだ実践で使えるレベルではないと思っています。
オプション取引については数年前から興味を持っており、日記でも紹介しているカプランの本で勉強していました。なぜ、オプション取引に興味を持ったかというと、「損失が限定されている」という性質があったからです。
空売りの怖いところは損失は無限大であることです。意に反して株価が暴騰したら目も当てられません。それに比べてオプション取引は買いで入れば「損失は限定的、利益は無限大」です。しかもレバレッジが効いてますから、少額でも大きな利益を狙うことができます。
ただし、買いで入るオプション取引は損をする確率が非常に高く、しかもほぼ価値は0になります。100%の損失です。通常の取引では到底利用できるものではありません。
資金管理としてのオプション取引へ
そんなオプションですが、時々取引をするようになりました。儲かってはいませんでしたがいくつか成功や失敗を経験し、少ない資金で大きな利益を生むその特性からオプション取引をうまく下落時のヘッジに使えないかと試行錯誤を続けていました。
そんな中、執筆時点で発生した「コロナウイルス・ショック」で非常に有効に機能したため、資金管理の手法として皆さんにもご披露できるレベルになったのかなと思い、今回その手法について公開することにしました。
今回の記事について
この記事ではオプション取引の「いろは」を書くのではなく、いかにオプション取引を株取引のヘッジとして活用するかにフォーカスして述べたいと思います。
オプション取引の基本については、オプションを扱っている各証券会社のホームページに解説が載っていると思います。また、「オプション道場」さんのサイトはオプション取引について基礎からわかりやすく解説しており、私も最初はここで勉強していました。ぜひご覧いただければと思います。
株式投資はCAN-SLIMに準拠して順張りであることを想定しますので、オプション取引を使ったヘッジとしては、プット(売る権利)を買うことを前提に説明します。
最初はひとつの記事で書こうと思ったのですが、思いのほか長くなってきましたので2回に分けさせてもらいます。
こちらの記事ではオプションをどのような場面で利用するかを説明します。後半の記事は実際にどのくらいの割合でオプション取引に資産を回してどのように売買するのかを説明したいと思います。
日本で扱われるオプションの特性
実質、NK225オプションしか売買できない!
日本はアメリカに比べるとオプション後進国です。アメリカでは個別株のオプション取引ができますが日本ではできません。また、取引参加者が非常に少ないためほぼ日経平均に連動したNK225オプションしか流動性の観点で売買できないのが実情です。
従ってヘッジに使うのもNK225オプションになります。
ヘッジをかける。ということは保有している個別株の株価が下落した時にそれをカバーする動きになる必要があります。日本市場における最大の問題点はNK225オプションしか使えないため日経平均と連動した動きをする銘柄でないと十分に効果を発揮できないという問題点があります。
そういう意味では新興市場に上場する銘柄は注意が必要です。日経平均は上昇しているのに新興市場は下落している。という状況でオプションを仕込んだらダブルで損失を被ることになります。こうなると目も当てられませんね。(^-^;
「時間的価値」が加速度的に下がる局面でしか買えない!
次に十分に取引できる流動性をもっているオプション市場は、期日(SQ日)が近いものしかない。という問題があります。具体的にはSQ日から1~3カ月以内のものしか実質的に売買できないんです。
オニールは「オニールの成長株発掘法」の中で「SQ日から6カ月は確保したい」と言っています。オプション取引の専門家であるカプランも同様に述べています。これには「時間的価値」が関係しています。
オプションには「実質的価値」と「時間的価値」があります。
例えばオプションでNK225を20,000円で買える権利を持っている時に日経平均が20,000円を越えていれば、SQ日を迎えた時に越えた分だけ利益になります。例えば20,500円になっていれば20,000円で買える権利があるので、500円分の利益となり、1,000倍のレバレッジがかかっているので500,000円が収入となります。この状態を「実質的価値がある(インザマネー)」といいます。
では、日経平均が20,000円を切っていたとしてSQ日まで1カ月あるのと10日しかないのではどちらがその後上昇して20,000円を越えインザマネーになる確率が高いでしょうか?
当然、時間的に余裕のある1カ月のほうが可能性が高くなります。これを「時間的価値」といいます。時間的価値はSQ日が近づいてくると徐々に価値を失います。実質的価値のない権利(アウトオブザマネー)は時間的価値しかないため、いずれ価値を失ってしまいます。
時間的価値の概念は以下の図のとおりです。
ご覧いただいたとおり、SQ日が近づくと急激に時間的価値は失われます。SQ日には実質的価値のみとなります。オプション取引を主戦場とする投資家は、この急激に時間的価値が失われる前に利益確保します。オプション取引には売りと買いを組み合わせた「スプレッド」というものを使って利益を確保する方法があります。カプランの本にはこの「スプレッド」のテクニックがたくさん載ってます。
この「時間的価値」はSQ日の一か月前くらいから減少が加速します。時間的価値が減少すると、思惑通り市場が動いても時間的価値の減少のほうが早くて損失が拡大することがあります。
最初からインザマネーのオプションを買えばいいのに。と思うかもしれませんが、インザマネーのオプションというのはすでに価値のあるものなので非常に高いのです。しかもSQ日までに逆方向に株価が動けばあっという間に莫大な損失を抱える非常にリスクの高い投資方法になってしまいます。
このような仕組みなのに、日本のオプション市場では流動性の観点で1~2カ月前のものしか買えません。日本でオプション取引が儲からない理由はこの辺にあると思います。
ポイントを改めて書きますが、
■日経平均と連動するNK225オプション取引しか流動性の観点で取引できない
■「時間的価値」が加速度的に下落するタイミングからしか売買ができない
以上、2点が日本のオプション市場における特性になります。
これを押さえながらヘッジに活用できる状況とタイミングについて述べていきます。
オプション取引をヘッジに活用する状況とタイミングの見つけ方
市場の流れが同一方向に向かっていること
まず、最初の特性「NK225オプションしか利用できない」ことから、確実なのは日経225銘柄から投資銘柄を選択する。ということになります。ですが、CAN-SLIM分析をして大化けするとして選択した銘柄に日経225銘柄が選ばれることはほとんどないと思います。
そこで必要になってくるのは、市場や銘柄の流れがある程度同じ方向に動く状況であることです。
急落の局面でこそ有効
次の特性「時間的価値が加速度的に下落するタイミングからしか売買ができない」については、時間的価値の減少よりも早くインザマネーに日経平均が近づく=下落する必要があるということです。
つまり、急落しそうな状況であることが必要になってきます。
オプションヘッジのタイミングの見極め方
以上のことから全市場が下落の方向に一斉に大きく動くことが予測されるときがオプションでのヘッジが最も有効なタイミングになります。
ではこのようなタイミングをどのように見つけるかといったら日々の市場の分析の中でその兆候を見つけることが重要になってきます。
オニールはCAN-SLIMの「M」について市場の方向性を見極めることが重要だと述べています。私も昨年の11月頃から「オニールの相場師養成講座」に詳しく書かれた市場分析手法に則って投資日記の中で市場分析を始めました。
実際にどのように分析するかを今回(2020年2月)のコロナウイルス・ショックを例に解説します。以下のチャートは2020年2月末に急落したコロナウイルス・ショック付近のチャートです。
上のチャートの中で「D」と表示されているのはディストリビューションと呼ばれる現象で大口の売り抜けの動きを示すサインと考えられています。
年明け後、イラン問題で一時的に下落した市場ですが、この時の市場はまだ動きが強く、リバウンドした流れで①の位置で年初来高値を更新しています。ところがその後コロナウイルスで中国の不調が懸念される事態となり、②でディストリビューションを連発します。
その後、中国政府の買い支えや金融緩和の発表もあり状況の改善を期待して③まで反発します。ですが、この時①の高値を越えることができませんでした。その後は反発の力が弱く、③の高値を越えることはできずに④の位置でディストリビューションが高値から3回目の時に大きく下落、その後は下落が止まらず続落しています。
同時期の他の市場の動きも見てみましょう。
ずっと好調だったJASDAQ市場も日経平均の①のタイミングで高値をつけてここからディストリビューションを連発しました。その後一時小康状態を保つもディストリビューションを連発して再び下落を加速しています。
マザーズは前年の12月からディストリビューションを連発していました。その後も他の市場に合わせて下落が加速する流れとなっています。
以上のことから、私が今回オプションでのヘッジを本格的に考え出したのは、全ての足並みが揃い出した①から②の動きが見えた時です。
この時期から2月限(SQ日2/14)や3月限(SQ日3/13)のプットオプションを買いで入りました。以下が2月のオプションの取引内容です。
②から③の場面である2月前半~後半はオプションの価値はあっという間に0に近いところまで価値が減少しています。当然損切りしました。
しかし、③から④の場面で徐々に利益がでてきて④の場面で大きく利益が伸びています。一部のオプションは330%(4倍強)の利益がでていますね。
このように市場を予測して、保険をかける感覚でプットオプションを仕込むことがヘッジには有効です。
ディストリビューションは2~4週間の間に3~5回発生すると下落トレンドに移るとオニールは述べています。また主要市場の一つが前述の状況になれば下降トレンドになるといいますが、日本市場に限っていえば新興市場と日経平均では大きく動きが異なることが多いように思います。恐らく市場規模が米国のように発達していないことで需要が偏りやすいことが原因なのかなと思います。
従って、全ての市場が下落の流れに入りそうなタイミングを見計らうことが重要で、そのためにはコロナウイルス・ショックの事例で見たように日々の市場分析が事欠きません。
ぜひご自分でやられることをお薦めしますが、面倒くさい方は私のブログで良かったら毎日の投資日記で確認していただければと思います。(^-^;
最後に
ここまでオプションの特徴とヘッジとして使うタイミングについて書きました。オプション取引がそれほど簡単なものでないことはなんとなくご理解いただけたと思います。ただし、流れが的中して株価が大きく動くと、一瞬で大きな利益が発生するのがオプションの魅力です。
そういう意味では少ない資金で大きな効果を期待できる効率のよい投資手法であるといえます。
そういう特性がありますので、あくまでも今回はオプションで儲けることが目的ではなく、急落時にヘッジとして機能させることを念頭に掛け捨ての保険代のような形で捉えて取り組むべきです。
次回は投資資金がゼロになる可能性があるオプション取引をいかに資産を傷付けずに取引するのかについて書きます。
オプションは株価の動きで激しく上下動します。ボラティリティの高い地合いだと価値が2倍になっていたと思ったら10分後はマイナスに転じていた。なんてことも頻繁に発生します。なので頻繁に売買を繰り返してヘッジとしての効果を発揮させることがポイントです。
後編については以下をご参照ください。
AS Wind流資金管理法 オプション取引を使ったヘッジのかけ方 後編