「CAN-SLIM」は「オニールの成長株発掘法」(パンローリング)で詳細に述べられている銘柄選択のポイントになるキーワードの頭文字を集めたものです。今回は2番目の要素「A」についての概要と実際の投資における活用方法について説明します。
AはAnnual Earnings Increasesを表しています。訳すと年間の利益増加となります。Cの項目では短期的なスパンである四半期利益の増加について書いていますが、ここではより長期的なスパンの年間利益について触れています。さらにこの章ではROEやPERなど、数字として扱う要素が詰め込まれた内容になっています。
PERの話については、選定に必要な要素としては捉えておらず、どちらかというとPERをあてにしてはならない理由を書いています。ここでは選定に必要な情報に絞ってオニールの言葉を借りながら説明していきます。PERの話はまた別の記事で触れたいと思います。
目次
年間EPSは3年連続で増加
年間EPSが過去3年連続で増加しているものを探すのだ。2年目のEPSが下がっている銘柄は、たとえ3年目の結果が過去最高水準にまで回復したとしても、選択肢から外したい。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
Cの項目では四半期EPSが2期連続で上昇することとしていましたが、Aの項目ではこれにプラスして年間EPSが3年連続上昇していることを条件にしています。「連続」と書いたとおり、2年目が下落して3年目が急上昇したとしてもダメだと言っています。さらに追加の条件があります。
株を買うなら、その銘柄の年間EPSの増加率が25%、50%、あるいは100%以上のものを選ばなければならない。(中略)大化け銘柄の4銘柄のうち3銘柄が、大きく株価上昇をする前に、最低3年から長くて5年の間にある程度の年間EPSの増加率を示している。(中略)5年の間に一時的に増加率が下がっても、翌年に新たな高水準まで回復すればよしとする。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
年間EPSの増加率としては最低25%以上となります。
そして「一時的に増加率が下がっても、翌年に新たな高水準まで回復すればよし」と書いています。どういうことでしょう?
例えば、5年前のEPSが10だったとして、
①4年前のEPSが15(10に対して5伸びているので増加率50%)
②3年前のEPSが25(15に対して10伸びているので増加率66%)
③2年前のEPSが45(25に対して20伸びているので増加率80%)
④1年前のEPSが60(45に対して15伸びているので増加率33%)
こうなった時、③から④にかけて増加率は下がってます。従って今年のEPSとしては「新たな高水準」でなくてはいけないので、③の年のEPS増加率である80%を越えなければならないということです。すなわち、60の80%である、48が上乗せされた108が最低でも必要ということですね。めちゃくちゃ高いハードルですよね。(^-^;
しかし、他の銘柄を凌駕する「大化け」する銘柄だとしたら、このぐらいの条件はあって然るべきかもしれません。
成長株を選ぶときにもう一つ重要な要因があることが分かった。それは、過去3年間の年間EPSの増加率の安定性と一貫性である。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
最後の確認として増加率の安定性と一貫性を調べるために四半期毎のEPSを対数グラフにプロットしていく。という話がでてきます。
正直、そんなことやってられませんよね。(^-^;
オニールは対数グラフ上でEPSのプロットを結んだときに直線を描くことが大事だと言っています。対数グラフで直線を描くということは、ほぼ倍々ゲームでEPSが増えているほうがいいということです。
毎年、安定的に倍々ゲームでEPSが増加していることが大化け銘柄につながる条件です。
Cの項目と含めてここまでEPSを見てきました。オニールが非常にEPSにこだわっていることが伺えますね。
ROEの基準
我々は研究を通して、過去50年間で急成長を遂げたほぼ全銘柄が、最低でも17%のROEを示していたことを突き止めた(なかでも特に優れた大化け銘柄のROEは25~50%ほどになる)。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
ROEとは自己資本利益率ですね。当期純利益を自己資本で割ると導かれる数字です。
自己資本は利益剰余金や株主資本(我々が投資した資金)ですから、元金で如何に儲けているかの指標になります。これが高いということはそれだけ効率よくお金を稼いでいることになります。
この項目は非常にわかりやすくて、スクリーニングには最適です。しきい値としてROE17%以上とすれば、おのずと大化け銘柄に一歩近づくことができます。ただし、しきい値をわずかに下回ったり、来期以降に大幅にROEが改善することが予測される銘柄ははじかれてしまいますから注意が必要です。
キャッシュフローについて
大化け銘柄のなかには、実際のEPSと比べて、一株当たりの年間キャッシュフローが20%以上も大きい銘柄がある。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
ここでいうキャッシュフローとはフリーキャッシュフローのことですね。細かい説明は省きますが、自由に使える現金がいくら残っているかということです。
フリーキャッシュフローをそのまま書いてある情報サイトはないと思いますが、営業キャッシュフローから投資キャッシュフローを引いた数字です。
EPSと比べて話しているのでわかりづらいですが、上記で言っていることを要約すれば、純利益よりもフリーキャッシュフローが20%多いということですね。例えば年間の純利益が100億円の時、現金を120億円以上持っているということです。
この条件については必須項目にはなっていませんので、保険のつもりで確認しておく感じでいいかと思います。
新興銘柄の判定方法
3年間のEPSがまだ記録されていない新規公開株の場合には、直近5~6四半期に大きなEPSの増加があったか、さらに、より大きな売り上げ増加があったかを調べるとよい。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
上場したての銘柄については、5~6四半期のEPSを確認するように述べています。上場前の数字がわかればいいですが、わからない場合は上場から1年半くらいが最初の投資タイミングになりますね。そのころにはロックアップの影響や初期のボラティリティの高い期間も過ぎているでしょうから、最初のねらい目としてはいいと思います。
注意点
過去3年間のEPSの増加率が30%という素晴らしい記録を持つ企業でも、直近の数四半期のEPSの増加率が10~15%ほどに減速している銘柄は、完全に成長が止まった成熟株だと言える。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
株を買うなら、過去3年連続で大幅にEPSが増加し、さらに最近の四半期でもEPSに力強い向上が見られる銘柄に絞ること、この条件は必ず守らなければならない。
ウィリアム・J・オニール 「オニールの成長株発掘法第4版」より
Aはどちらかというと長期的なEPSの増加を見ていますが、やはりCの条件が合わさっていないと成長末期ということになってしまいます。オニールも何度もしつこく言っていますから、ここは必ず押さえたいところです。
イメージとしてはジワジワと成長を続けていて、直近の決算では加速度的にEPSを伸ばしている銘柄を狙うということでしょうか。
まとめ
二つ目の要素Aのポイントです。
1.年間EPSが3年連続上昇していること
2.年間EPS増加率は25%以上
3.5年の間に一時的にEPS増加率が下がっても翌年に新たな高水準まで回復すればよし
4.安定的に倍々ゲームでEPSが増加していることが大化け銘柄につながる条件
5.ROEが17%以上の銘柄を選ぶ
6.大化け銘柄にはフリーキャッシュフローが純利益より20%以上のものもある
7.上場したての銘柄については、5~6四半期のEPSを確認する
8.Cの項目とAの項目、両方の条件を必ず押さえる
9.ジワジワと成長を持続させ直近の決算で加速度的にEPSを伸ばしている銘柄を狙う
以上となります。
CとAの項目は明確な数字が示されていますので、ここをしっかりと押さえることが大事です。また、この条件をクリアした銘柄は自ずとその後のN,S,L,Iの要素を備えている可能性が高くなります。
他の要素は以下よりご覧ください。
1.「CAN-SLIM」のC(Current Quarterly Earnings) -直近四半期利益-
2.「CAN-SLIM」のA(Annual Earnings Increases) -年間利益の増加-
3.「CAN-SLIM」のN(New Products,New Management,New Highs) -新製品、新経営者、新高値-
4.「CAN-SLIM」のS(Supply and Demand) -株式の需要と供給-
5.「CAN-SLIM」のL(Leader or Laggard) -主導株か停滞株か-
6.「CAN-SLIM」のI(Institutional Sponsorship) -機関投資家による保有-
7.「CAN-SLIM」のM(Market Direction) -株式市場の方向-